原因をこじつける心理学ではなく「目的」を観察する心理学-カウンセリングの目的論-

人生目標について

 

人は一般的にある現象を観察すると、その現象を成り立たせている要因、仕組みを見つけ出すことによって理解しようとします。

例えば

脳出血の原因に高血圧があり、高血圧の原因として塩分の過剰摂取があった

落雷は雲の中で発生した静電気が+と-極に別れ、-極が地上の+極と引き合って落ちる

りんごが落ちるのは地球と引き合う力が働いているからだ

 

これらのような説明の仕方に普段私たちは慣れています。そのため多くの心理学も同様のモデルで人間の心の働きを説明しようとしてきました。

例えば

人間の心の不具合は以前経験した外傷体験が現在の判断や行為を妨げるから

個人の性格や行動はこれまでに環境が与えた刺激が形作る

心は本能と良心の矛盾の中に折り合いをつけながらその間でバランスをとって周囲に適応していく

などです。

 

しかしこれらの考え方は私たちの普段の思考の形態に慣れ親しんでいるので自明のことのように思われてしまいがちですが、果たしてそうなのでしょうか。

自然現象は観察したり観測する手段があります。

しかし人間の心はそうはいきません。時間的に過去に流れて去ってしまっているのですから。来談者の説明もあてにはなりません。なんの客観性もないのですから。

そもそも原因の特定はできません。本人が原因だと思っていても因果関係を証明することができないのです。

勿論私たちも何らかの原因が存在しているであろうことは否定はしません。ただ科学として扱うことは断念せざるを得ないと言っているのです。

行動には目的がある

これはアドラー心理学の大前提です。

心理学は人の行動を観察、理解し、制御しようとする心理学です。

しかしその方法論として原因を一因一果で求めようとする心理学の説明には無理がある、という話を前段でしました。実際このモデルを採用する臨床心理学のカウンセリングは大変効果が乏しいのです。日本ではなんだかそのことを大っぴらに指摘してはいけないかのような雰囲気が漂っています。

人間の行動の原因を知ることは不可能だとしても、人はでたらめな行動をしているわけではありません。あなたも家族や友達の行動がなんとなく予想がつくはずです。つまり何かの法則にしたがって人は生活しているだろうということです。そうでなければこの社会はでたらめな場所になってしまいます。

さて、ではどうすればよいのでしょうか。

それが行動の原因ではなく、行動が何に向けて行為されたものであるのか、つまり目的を理解する、という方法です。

例えば

おなかが空いたからご飯を食べる目標

と日常会話では使います。原因論風な説明です。

しかし正確にはおなかが空いたから「空腹を埋める」という目標のために私たちは食事をします。

上司に叱られて泣いている若いOLがいたとします。

一般的にしかられた(原因)から泣いた

と考えるでしょう。

しかし、これ以上叱られたくない(目標)から泣いて見せる

または、泣くことで上司を困らせてやることができる(目標)

と考えると物事を観察しやすくなります。

 

そんなバカな、この場合はどうなんだ?

そう思われる方も多いでしょう。実は学び始めたころ私もそう思うことがたくさんありました。そして説明を求めて話を聴くとこじつけに近い答えが返ってきたような気になったこともあります。この理屈が正しいことを証明するために理論に合わせて無理やりでっちあげていませんか?と。

しかし・・・

アドラー心理学を深く学び、カウンセリングの技能に習熟するにつれ、本当にそうなんだな、と今では思います。こじつけやでっち上げに見えるのも、より大きな環境との相互作用で現象を観察する目を持たないからそう見えていたのだ、ということに納得がいきました。

それにこの理屈がおかしいというのであれば、人の心を一般科学の方法の仕方で説明するのも実はかなり異常なことに思います。

一般科学の方法は客観的に観察できる、計算できる現象に関しては物凄く役に立ち方法で、人はこの方法を洗練させ、頼るようになってきましたが、そのあまりなんにでもこの方法で対応できると錯覚したのではないかと思います。

人間の行動については一般科学の方法では説明できないことも多いのです。

また、目的論の最大の長所は現在から未来にかけて行われる人の行為を対象にするわけですから、実際の観察が可能だという所でしょう。

このようにアドラー心理学では人間の行動について優れた洞察を持っています。

的2本当にこの説明が正しいのか、と疑問に思われる方がいても無理はありません。しかしもしその方の具体的なコミュニケーションについてお話を伺う機会があったなら、きっと体験的にこの説明が合点がいくものであることをわかってもらえることでしょう。

また、この説明で人間行動を説明するのは個人だけではなく、子育ての上で大変協力な視点を我々に提供してくれるのです。

アドラー心理学が臨床や教育について極めて有効なアプローチを行える秘密の一つといって良いでしょう。

子供の躾けで考えているお母さんにきっと大きなヒントをもたらすことができると自負しております。

 

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