「うつ」について-カウンセリングの視点から-

カウンセラーの立場からの「うつ」

うつ病は精神科医の専門領域で心理学の立場からはサポーティブな立ち位置でしかありませんから、カウンセラーの立場から、ということはあまり知ったか振りをあまりしてはいけない領域であるな、という節操が込められています。そこをあえて心理学の立場からという限定的な枠の中で話をしてみたい、ということです。

ですので裏付けは各自ドクターに当たってくださいね。参考にしようと思っている当事者の方であればなおさらです。念を押しておきますがくれぐれもそのようにしてくださいね。

因みに躁うつ病とは「うつ」という名前は含まれているものの全く別物だと思ってください。

あいまいな「うつ」という名称の使い方

ドイツ精神医学とアメリカ精神医学について、DSMの問題点等を以前簡単にお話をさせていただきました。そのため、昔は「うつ」といってもその病状や経過などから内因性うつ病、抑うつ神経症、反応性うつ、などと分けられていたりもしました。時にそれは診断の難しいことでもあったでしょう。その診断のわずらわしさからDSMがある意味救ってくれたわけです。

みんな「大うつ病」という診断にまとめてしまった。語弊を恐れずにいうならばそんな感じでしょう。

簡便で良かったかもしれませんが、心理学は来談者の訴えの背景にあるメカニズムに深く関与しなくてはならないので、これは少々乱暴なことのように思われるのです。

お陰で「うつ」と名の付くものの、いろんなメカニズムのものが雑多に含まれます。うつ2

しかしこれとは違って人為的に「うつ」ではないものがうつ扱いされることがあります。

病院に勤めていたころ、他の病院から診療情報提供所を持参して転院を希望されたり、クリニックからの紹介で入院をする方を拝見してきました。

そうすると「うつ」という診断名が書いてある方の場合単純な「うつ」の話ではない場合が多々あることに気が付きました。

例えばDSMには「〇〇〇人格障害」という診断名が載っています。障害という名称はDisorderの訳語で正常に機能していない、くらいの意味だと思うのですが、日本語で「人格障害」というと悪口に近いニュアンスを帯びているように思います。

医師もこの診断名を直接患者に言うことを好みません。

そして「うつ」状態は多くの病名に現れる症状ですから人格障害の方の訴えに現れてもおかしくありません。

その結果医師はあえて「うつ病」などと言うのです。

その結果一部周りを困らせるような振る舞いをする人が大手を振って「私うつ病です」という現象があることもあるのです。

ディスチミア親和型うつ

そこに加えて近年新型うつ、と呼ばれるものまでが登場します。「ディスチミア親和型うつ」と言われるものです。古典的なうつはこれに対して「メランコリー親和型うつ」と言われます。

以前ネットのニュースで読みましたが

アメリカのある会社員がうつのために休職していました。しかしひょんなことから彼は新聞の載ったのです。

サーフィンに旅行に来ていた先のオーストラリアで溺れていた子供を助けた英雄として。

このことが会社にばれてこの人は確か解雇を言い渡されたと思います。
うつで療養しなくてはいけないということで休職しておきながら、その実海外で遊んでいたわけですから。

私は医師ではないので、と何度もお断りしつつ、越権ではありますがこの方はディスチミア親和型のうつだったのだろうな、という感想を抱きました。

つまりディスチミア親和型うつの特徴とは、

自分の責任を回避し、他者に対して批判的であり、決まりごとに従うことを好まず、という傾向が強く、職場などでの不適応が起きやすい状態です。ですから落ち込むのでしょう。

ですがそれは「うつ」とは区別されるべきものだと心理学的には思います。

年季の入った精神科医はこれはうつの装いはしているけれど、うつじゃないよね、と思っているのではないかと思います。

遊んでるときは元気だけれど、仕事をしているときにはうつだなんて、心理学的にその背景を考えるとちょっと・・・目的論のお話をした際に触れたように

もっともご本人はそう言われることについてはご不満でしょうけれど。

抗うつ薬と心理療法、その効果のほどは

さて「うつ病」の治療について精神科では抗うつ剤を処方されながら養生の仕方を教えてもらうことが一般的だと思います。

養生というのはくすり

気晴らしをしようとしないこと

昼寝しようとしないこと

薬は効果が出るまで時間がかかるものなので欠かさず飲むこと

などの生活上の注意についてです。

そしてこれらの薬物療法など精神医学的アプローチは最近では効果が高いことが知られています。そしてそれと同じだけ認知行動療法は効果を証明しています。この効果の統計的証明がエビデンスと呼ばれるものです。

認知行動療法はアーロン・ベックの認知療法が行動療法とセットになった学派ですが、これは統計的にも薬物療法と同じくらいの効果を表しています。

心理療法が薬物療法と同じくらいの効果が出せる、というのは画期的なことだと思います。ですから認知行動療法は医療機関で行われた際に保険点数の適用を受けられるのです(平成29年現在は医師が個別で行った場合に限られ、薬物診療に比べて費用対効果が良くないため、実際に実施している医療機関は少数)。

勿論最も統計的な効果が高いとされるのは薬物療法と認知行動療法の併用です。

うつは心の風邪なのか

「うつ」は必ず治るから、という人もいますが。難治性と呼ばれるものもあります。アドラー心理学的には治らないうつの人がいるのは当然のことだと思います。

上述したように「うつ」の背景も様々です。

また、アドラー派では行動の目的について考えるのですが「うつ」であることも目的があってなされる、と考えます。「うつ」が必要がなくなる状況が訪れるなら「うつ」を手放すことはあるでしょう。ですがどうにもならない状況というものがあります。

この場合「うつ」状態は継続されるだろうと思うのです。

ですから時間をかけてある程度の治療やカウンセリングなどが「うつ」を改善することは珍しくありません。全くあきらめる必要は無いのです。

しかし難治性の「うつ」は存在するのです。

ですから「うつ」を心の風邪程度に認識するのは適切な比喩であるとは思いません。

アドラー派は直接「うつ」を扱わない

アドラー派では病気や症状と言ったものを直接は扱いません。何を扱うかというと来談者が自分の意思で行動を変化させられるもの、随意行動についてのみだけだからです。この部分が認知行動療法とターゲットを異にしています。認知を扱うという部分でかなり似たところがあるにも拘わらず全く違う節度に基づいたシステムなのです。

ですのでアドラー心理学ではうつ病の治療をカウンセリングで行ったりはしません。うつ病であるがゆえに発生した現在の生活や対人関係の困難、時に来談者の性格のことなどについてお話しさせていただくことができるのです。

正し来談者の随意行動についてカウンセリングを進めていく中で来談者が苦にしていた症状が消失していくことは珍しくありません。「うつ」に限らず。

また、精神科にかかっていらっしゃる方は主治医にカウンセリングを受けても良いという許可をいただいてくださるようにお願いしております。

家族に「うつ」の方がいる場合

「頑張ってね!」など患者を励ますような言葉は良かれと思ってでもプレッシャーになるので言わないこと、という知識はかなり一般的になってきました。プレッシャーで「うつ」になっている人が多い中で追い打ちをかけるようなものだからです。

また「うつ」の克服を考える方もいらっしゃるようですが、それは上記の「頑張る」と同根の発想だと思うのでお勧めできません。克服というより、どう付き合っていくかだとゆったり構えていた方が良いのではないでしょうか。

家族は本人が養生に専念できるようにサポートしてあげるのがいいと思います。くれぐれも頑張って養生することの無いように。

そして最も気を付けなくてはならないのは自殺です。

うつ病の方は自殺を考えることが多く、実際に実行に移す方も多いです。多くはうつになりかけの時期と治りかけが一番リスクが高いと言われています。

なぜなら最も「うつ」の程度の思い時には体を動かす気力もないわけですが、そうでないときには実行能力が備わっているからです。

予防するためには精神科の閉鎖病棟に入院するのも良い方法です。抵抗感を覚える方もいらっしゃるでしょうが、比べるのは「命」です。

「自分はまだ精神科に受診するほどではない」と言う方は珍しくありません。「うつ」に関わらず。しかし程度が重くなるとその時点でなかなか受診につながる行動をとりづらくなりがちです。

余裕があり、まだこの程度で受診するものじゃない、そう思っている間に受診するべきです。家族の方もそう心得るのが良いでしょう。

なるたけ大げさにならないように少しでも大げさにならないように、目立たないように、穏便に、内々で、と日本人はしたがるものですが、重要な問題であることを理解し、解決を値切らないでください。

大切なことです。

「うつ」は広汎性発達障害などとは違い、多くの医師がその扱いに慣れている疾患です。ですから比較的安心して受診できると思います。勿論柏市にも良い精神科の先生がいらっしゃいますし、当オフィスでも来談者の方に柏市内の精神科を紹介させていただくこともございます。

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