子供にストレスを与えなければ健康に育つのか?-よくある子育ての誤解-

ストレスさえ無なければ健康だ、というのは誤った考え

私が精神科に勤めていたころの話をモデルにした作り話をいたします。

精神科を初めて受診した方には診察の前に受信に至ったいきさつを尋ねるのが一般的な手続きとなっている場合がほとんどで、当時私は外来でその仕事をしておりました。

面接室には父親に連れられた20代の女性が入室してきまして、両者ともにとても表情が明るかったことが印象的でした。というのも多くの場合精神科を訪れる方は表情の冴えない方が多いからです。体に症状が出てしまい、仕事に行けなくなってしまうとのことだったのですが、その為に退職せざるを得ない、ということをこれまでに何度か繰り返している方でした。

大変印象的だったのは、これまでの学生生活はすごく楽しく過ごし友達と一緒に活発に活動してきていて、ストレスとは全く無縁に自由な暮らしを送ってきた人なのにどうしてこうなってしまったのか?という父親の言葉でした。

 

この時に真っ先に思ったのはストレスが無いと健康でいられると思っているんだなあ、ということでした。世の中ではストレスが貯まる、ストレスを発散させる、という言葉遣いを良くされています。目に見えないことについての話題について言葉でそのような取り扱い方をすれば、私たちは無意識にその言葉が表現しているままに受け止めてしまうので本当にストレスが貯まったりするかのように信じられてしまいます。この時もそんなことを考えていました。

 

では何が大切なことと考えるかというと、それは「したいことをして暮らし、したくないことをしないで暮らす」ことではなく「すべきことをし、してはならないことはしない」ということを学ぶことです。詳細はふせますが例に挙げた患者は自分の興味の赴くままに人と楽しく生活することだけしてきた方のようでした。しかし義務や責任とお付き合いして暮らすことには慣れていなかったようです。

べーだ

勿論これだけで全ての問題が解決するわけではないのですが人が社会的な存在であるためには基本的で重要なことであり、大人が子供たちに伝えていかなくてはならないことです。「何で自分がやらなくちゃいけないんだ」という言葉を子供から聞いたら黄色信号かもしれません。

私たちが健康でいられるのは社会との適切な付き合い方を身に着け、社会に有用な人であるからです。ストレスがあるから、無いから、ではありません。そのために必要な苦労は当然あるのです。そこに居場所を見つけて充実感を感じている人が本当に健康な人なのです。

過剰に子供の心の傷を気にされる方もいらっしゃいますが、すべきことを学び損ねるより大きな実害は日常生活ではないと思いますよ。