ここでは催眠及び催眠を使ったセラピーである催眠療法について解説しています。催眠を知らない人はいないと思いますが、よくわからない、何か怪しい、という感想を伴うあやふやな印象が一般的認識なのではないでしょうか。
ここでは催眠及び催眠現象に関心を持つ初学者や催眠療法を検討している方に催眠療法に関する適正な情報をお届けすることを目的に催眠についての情報をお届けしています 。
催眠の定義
催眠状態と呼ばれる現象が観察され 、主に臨床領域で活用されていますが、 では催眠とは何か、と改まって確認しようとすると未だに全ての研究者が合意するような基準に到達していないのが現状です。 そのため専門書を読んでも催眠の定義に触れずに催眠の技術について記述していることも多いほどです。
催眠の定義について一例を挙げてみると
暗示による信念によりて、主として主観的の病苦を去って疾病に対し良影響を及ぼし、もしくは威信念を喚起して意思に抑制もしくは発動を促し、以て良果を結ぶべきもの。(森田正馬)
催眠とは、信頼できる暗示にたいして相対的に影響されやすくなっている状態を言う。(ハル)
催眠とは一つの考えまたは一連の考えに対し、集中した注目と受容性を保った状態である。(エリクソン)
ミルトン・エリクソンは催眠は催眠誘導によって発生する特殊な意識状態という考えではなく、人は一日のうちに何度も催眠に出たり入ったりしていると考えていたようです。これは従来の催眠現象の幅をかなり拡張してとらえた立場と言えるでしょう。
状態派と非状態派及び修正派
催眠の定義は未だに定説が存在しないということには既に触れました。これまでに様々に定義がなされているものの、それらはそれぞれの催眠臨床家が自分の立場から催眠について述べたものであり、決して科学的に十分な説明がなされたものとはいえないものでした。
現在では科学的に催眠という現象を理解しようとす立場は 現在、大きく二つに別れてそれぞれの主張を展開しています。それが状態派と非状態派と言われる立場です。
状態派とは催眠現象を大脳生理に基盤を置いた変性意識状態として考えています。
非状態派は変性意識の存在を認めず 、通常の心理的な概念で十分に説明できる現象であると考えます。 このサイトでは便宜上催眠状態という言葉を用いていますが非状態派の考えからすれば催眠状態と言う現象は存在しないことになるので不適切な言い回しと言われてしまうでしょう。この立場では催眠感受性と暗示から催眠を説明しようとしています。
科学の進歩により 脳の機能を画像として観察することが可能になった。その結果催眠感受性の高いものに関しては催眠暗示によって喚起された反応に対応する脳の部位がその活動を変化させていることが観察された。これは状態派にとって追い風となる知見である。また催眠感受性の高いものは脳梁の断面積より大きいことも確かめられている。
しかしながら催眠感受性の低いものの場合、 同様の脳の働きを確認することができ なかった。また催眠感受性は練習によっても変化するものであることから非状態派のしかも未だに 説得力を失っていない。
状態派、非状態派のそれぞれに 複数の立場が存在するがそれはここでは省略する。
現在この二つの立場を対立するものではなく 、催眠感受性はそのどちらにも影響を受けて成立するものであるとする考え方が されている。それをここでは修正派と定義しておく。 未だにこの議論は決着を見ていない。
他者催眠と自己催眠
催眠は催眠療法家の誘導によって催眠状態になるというイメージが一般的であるが自分で自分を催眠状態に誘導することを自己催眠と言っている。自己催眠をどのように理解するかということについては二つの立場があり一つは他社からの誘導による催眠状態であってすら本来被催眠者が自分の能力に応じて催眠状態に入っていくのであって、ただ催眠も含めて本質的には自己催眠なのであるという立場と自己催眠は他者による催眠とは異なった催眠状態である、というものである。 どちらの誘導によっても催眠状態にあるものの外観は同じように見えるのだが、自己催眠は自分が催眠者であり被催眠者でもあるため体験される内面の家庭が異なると言われている。
自己催眠は自分の精神状態をコントロールするテクニックの一つであり、習得するためにはそれなりの練習が必要となる。しかしいったん身につけてしまえば自身を管理するための力強い手段となりえるだろう。
催眠感受性
または被暗示性と言われることもある。
催眠はアメリカで本格的に実証的な研究の対象となるが、その中で催眠の効果は催眠療法家よりもクライアントの催眠へのかかりやすさ、つまり催眠感受性へとその注目を集めることになる。催眠誘導への反応のしやすさ、到達できる催眠状態の深さは 催眠を臨床的に用いる上で 期待できる効果を図る上で意味があると思われたのであろう。例えば浅い催眠状態で エズデイルが行ったような 麻酔効果を催眠によって得ることは不可能であろう。そしてそれを測定するための催眠感受性尺度も複数作られるに至った。その内容は比較的簡単な催眠現象から段階的に難しい現象までテストすると言う趣旨で構成されており、より難易度の高い反応をし示せるものほど催眠感受性が高いものとされる。
しかし臨床目的で催眠を行う多くの場面で催眠深度の程度は効果に影響しないという立場や催眠感受性はクライアントのモチベーションや催眠療法家との関係によっても大きく影響を受けるものであるため 個人に客観的な催眠感受性というものを仮定することにどれほどの臨床的な意味があるのかという意見から催眠感受性という考え方の有用性を疑問視するものも多い。
暗示
催眠との関連の中で暗示という言葉が使われる場合、催眠への誘導および催眠状態で催眠療法家がクライアントに与える指示のことを総称して暗示と呼んでいる 。
暗示とは暗に示すと言う漢字表記であるが、実際には「まぶたが重くなります」「手が離れなくなります」など何を指示されているのかは明らかに示されている。
これに対してミルトン・エリクソンが開発した一見何を意図しているのかわからない働きかけであるにも関わらず催眠療法家の目的としている影響をクライアントに及ぼす暗示のことを間接暗示と呼ぶようになった。これに対してそれ以前の暗示を直接暗示と呼ぶことがある。
催眠療法とは
催眠療法とは催眠状態にあるクライアントに働きかけることによって行う心理療法を総称したものと言える。 大きく分けて催眠状態のもとでリラクゼーションや行動変容などの暗示を与える 、催眠状態で 特定の流派の心理療法、例えば催眠認知行動療法、自我状態療法など、一般的な心理療法の促進や 補助として部分的に用いる、などの使い方をされる。
催眠療法の過程
一般的には通常の心理療法と同じく受理面接や主訴についての確認が行われるが、催眠の適応と考えられた場合、被暗示性のテスト(省略される場合も)、主にリラクゼーションを用いた催眠誘導、 症状除去や自我強化を目的とした催眠暗示または催眠状態でのセラピー、後催眠暗示(必要があれば)、解催眠、という経過をたどるのが一般的である。 ただし熟達した催眠療法家の臨床では 一般的な段取りから離れてより高い自由度を持って催眠療法が臨床の中で用いられることも珍しくないだろう。
※後催眠暗示とは催眠療法のセッションが終わったあとも効果を発揮することを期待して与えられる暗示のことである。
催眠療法の歴史と代表的心理学者
近代以前
催眠を治療的な目的で用いた起源は臨床心理学の成立よりもはるかに古くまで遡ることができる。古代ギリシャ、インド、チベットなどにおいても治療の目的で催眠現象を用いていたと考えられる記録が残っている。まして資料の残らない太古の時代のシャーマニズムの中で催眠現象が効果的に用いられてきたであろうことも想像に難くない。
中世においても11世紀においてはイングランドのエドワード懺悔王が手を触れることによって人を癒すということをしており、当時の教会もこれを認めていた。これらの現象は現在でいうところの催眠現象を応用したものであると考えられている。
古典的催眠
メスメル
しかしながら現代の臨床心理学の中に催眠が位置づけられるには1775年に登場したフランツ・アントン・メスメルから記録される。メスメルは「天体の影響」という論文を発表したこともある学者であった。この頃は重力や電気、磁気などの自然科学上の画期的な発見が相次いでおり、磁気を帯びた金属を用いることで身体的な痛みを除くのに著しく効果のあることを学んだ。やがて同じ現象が手を触れることによっても引き起こされることを知り、これを体の中に存在する磁気の力であると考えたことをから「動物磁気」と命名した。メスメルはその後診療所を開設して積極的に治療行っていたが、多くの批判的な評価も集まり、ついにはルイ16世の指示のもとフランス科学アカデミーによる調査を受けることとなった。
その結果動物磁気の存在は否定され治療効果は空想によるものとして結論づけられた。
しかしこのフランス科学アカデミーによる調査は催眠現象が強烈な生理作用を伴い、イメージがもたらす影響によるものであるという現在の催眠状態の説明にも通じる重要な知見をももたらしていた。
このメスメルの治療は現在の目から見れば理論的には疑似科学と言われるべきものであるし、技術的には奇異な印象を与えるものであったため、その後の催眠療法への印象にあまり良い影響与えていないのではないかとも言われている。しかし動物磁気はその勢いを大きく失速させながらもメスメルの活動したフランスの地で弟子たちによって細々とした活動をしていたようである。この時代メスメル以外にも宗教家による癒しを目的とした接触による癒しは行われていたが、神秘のベールをぬぐい去れなかったにせよメスメルがそこに科学としての装いを与えようとした事は臨床心理学の範疇に催眠療法を位置づける先駆けと言っていいだろう。
ブレイド
その後もエズデイルはインドで外科手術に催眠を麻酔として応用して手術中の死亡率を著しく減少させた結果を報告したこともあったが、スコットランドに戻ってから同様の結果を得ることができなかった。動物磁気の実演などから刺激を受けそれを証明するための実験を行ったものもいたが、学会にまともに取り上げられることもなかった。そのような中でエズデイルの同僚の一人であったイギリスの眼科医であるジェームズ・ブレイドがこれまでとは違った立場から催眠についてのアプローチを開始することとなる。当初ブレイドは動物磁気を否定する目的で研究に取り組んだと言われている。ブレイドはこの現象があくまで心理学的なものであり暗示による影響であると主張した。彼はこの現象にギリシア語で眠りを表ヒプノスに由来するヒプノティズムと言う名前を与えた。ブレイドは催眠に誘導する際に物体を凝視させ目の疲労感を起こし眠ることを意識させていたがこれは彼が眼科医という立場から当然のアプローチであったかもしれない。また睡眠と深く結びつけて考えたせいか、覚醒の際には四肢を叩く、耳元で大きな音をさせるなどの手段を用いたために現在から見れば強引な覚醒方法を取っていたため被験者には頭痛などの症状をもたらしていたという。これが現在「催眠」という名称を定着させるきっかけとなり現在の科学的な催眠療法のスタートと言える。しかしブレイドは自らの発見を広く世に知らしめることには関心が薄く、学問的な注目を集めるにはさらに時間を待たねばならなかった。
リエボーとシャルコー 〜ナンシー学派とサルペトリエール学派〜
その後リエボーとベルネイム、シャルコーが同時代にそれぞれ別々に催眠療法に注目をするようになる。
リエボーはフランスのナンシーで催眠療法を行い「睡眠とその関連領域について」という本を出版した。やがて神経学教授ベルネイムに見いだされて交流がスタートする。ベルネイムは「暗示療法」を出版してリエボーを世に知らしめた。2人の立場はナンシー学派として知られるようになるがその主張は催眠が心理学的な現象であるということを主張するものであった。
一方シャルコーはブレイドの学説に注目し、ヒステリー患者を過度の光や音にさらすことによって全身痙攣を起こさせるという手法の催眠誘導を用いていた。シャルコーはサルペトリエール学派と呼ばれ催眠現象とは病的な現象でありその適用はヒステリー患者に限られると主張してしナンシー学派と対立。これ以降ナンシー学派とサルフェートリエル学派の論争が勃発する。しかしその後の研究の結果ナンシー学派の正当性が認められ、催眠療法の主流とみなされるようになる。しかしいまだに手法が洗練されておらずナンシー学派の催眠誘導は権威主義的な立場から「眠る」という言葉を繰り返し与えるものであり、覚醒方法も現在から見れば配慮に乏しいものであったため頭痛などの症状を現すことが多かったという。そのため一部の患者からは評判が芳しくなく後継者も育ちにくかったと言われている。
ジャネ
ここで催眠の臨床的な応用を飛躍的に進歩させたジャネが登場する。ジャネはベルネイムとシャルコーのどちらにも師事し催眠を解離現象つまりある心理的な過程をそれ以外の精神活動かシャルコーら隔離してしまう過程と捉えた。これはヒステリーの心理的メカニズムと通底する何らかの機制が働いているとする考え方であり、ヒステリーに注目したシャルコーからの影響が考えられる。「心理自動現象」はじめ数々の著書を記しているが、ジャネの注目した個人が自覚できないこれらの心理的な過程は必然的に人間の無意識の領域に注目を集めることになった。臨床心理学が無意識と言う分野を扱うことになった出発点である。ジャネはフロイトに先駆けて無意識の働きについて発表していたがその後フロイトが無意識についてあまりにも雄弁に語ったためにその影に隠れて現在に至っている。しかし今日ヒステリーなどの単純な疾患は数も少なくなり、注目の度合いも薄れているが、解離性同一性障害など現代的な解離のメカニズムが作用している疾患がクローズアップされている中で再びジャネの行った仕事に関心が集まっているとの評価もある。
フロイト
フロイトは舞台催眠術師、リエボー、ベルネイム、シャルコーから催眠を学んだ。フロイトは患者の無意識の領域に注目し後に精神分析を開発することに至ったのはあまりにも有名である。しかしながらフロイトは現代の催眠家からは催眠への誘導がとても下手なことでも知られており、その誘導のスタイルは患者に「眠りなさい」と強く指示を与えるものであったと言う。しかしこれはフロイト個人の責任ではなく当時リエボーらも行っていた権威主義的な催眠暗示の与え方であった。
フロイトは後に催眠療法を使わなくなってしまうだが、これは効果的な誘導が行えなかったこととも深く関係あるものとみられる。フロイトは患者に対して「眠れ!」と大声で怒鳴るという誘導方法を行なっていたためそれも当然の結果であると言えるだろう。この時代催眠療法は以前のような迷信的印象は薄れ、臨床家の注目を集めて様々な疾患に応用されるようになっていたが、当時の臨床家の催眠の応用は現在の催眠療法における限界や禁忌、それを踏まえた工夫といった観点がほとんど欠落していたと思われ、早々にその限界に突き当たったようである。その結果臨床家は催眠次第に催眠を用いることをやめ、再び臨床的な世界ではその注目を失ってしまうのである。
現代における催眠の発展
ハル
学習理論や行動療法で著明なクラーク・ハルは実験心理学の立場から「催眠と暗示」という本を出版した。これによって催眠現象が初めて実験を通じた検証を受けることになった。当時のハルはアメリカ心理学会会長であり、そのハルが研究したことにより再び催眠への注目が集まるきっかけとなった。このころの研究の注目すべき点としてはこれまで催眠者に注目されていた催眠現象が被催眠者の資質という立場から研究されるようになったことである。そのため被暗示性やそれを測定するためのテストの開発などが急速に進むことになった。このように科学的な立場からの催眠への研究は催眠を再評価する大きな役割を果たしてはいたが、催眠誘導を標準化させるという試みは臨床では個々のクライアントに対して応用しがたいものとなり患者のニーズに十分対応したものとはならなかった。これらの限界を乗り越えるために催眠を他の技法と折衷させる試みが広く行われるようになる。例えば催眠精神分析療法や催眠劇、自我状態療法などに代表されるさまざまな治療法が開発さている。
ミルトン・ハイランド・エリクソン
エリクソンは卓越した催眠療法家、精神科医、臨床心理学者であり、その活動は催眠療法及び心理療法の世界にこれまでにない革新的な手法を導入し、現在の催眠、非催眠的臨床の発展に大きな影響を及ぼすものとなった。彼の臨床は催眠の枠にとどまらず臨床心理学の理論、技法の発展に大きく及ぼしており、現在に至ってもなお充分に理解されているとは到底言い難い。そのためここでは少々詳しくエリクソンの臨床について紹介する。
られはしなかったようであるが何らかの障害を持っていたらしく、6歳のころに初めてアルファベット小文字のmと数字の3の区別が理解できた時の体験について語っていたり、高校2年のときに正しく発音できなかったgovermentの発音を教師が工夫して指導をし、正しい発音と誤った発音の区別が理解できた時の驚きについて述べたりしている。また17歳の時にポリオを発症したことは有名な出来事であるが、彼は眼球しか動かせない状態となる中、夕日を見るという課題を己に課した。夕日を見たいとう欲求があまりに強かったため、このとき彼は本来ならば見えないはずの位置から夕陽を見るという体験をしている。また、動かない体を動かすためのヒントを求めて当時一番下の妹がどうやって体を動かしていたのかをよく観察していた。
これらの体験はエリクソンが催眠に興味を持ち、臨床の中で患者にどのような過程を体験させることが問題の改善に役立つか、ということを考える上で大きな資源となったと考えられている。卓越した観察力を持つことでも知られており、以下のようなエピソードも有名である。エリクソンは人の首筋を観察することで心拍数を数えられたり、秘書の打つタイプライターの音から彼女の月経がいつ始まりいつ終わったのかを知ることまでできるほどの観察力を持っていた。
エリクソンはポリオを克服し、大学に進学する。2年の時に就寝した後、眠った状態で大学新聞に投稿する原稿を書けるかどうかを実験している。その結果エリクソンは原稿を書き上げることができることを確かめることができたが、それだけにとどまらず内容を読まずに原稿を編集者に送るということをして新聞が発行されるのを待った。エリクソンは新聞を読んでも自分で書いた覚えのある記事を見つけることができなかったが読まないまま保管しておいた原稿のコピーと比較することによって初めて自分の書いた原稿が新聞に載っていることを発見することができたという。
大学2年生の終わりにエリクソンはハルの催眠デモンストレーションを見学するが、ここから本格的に催眠を学ぶことになる。その後 ウィスコンシンの医大にある大学院へと進学し、医学と心理学の学位を取得している 。その後コロラド州ロードアイランド州マサチューセッツ州ミシガン州の病院を歴任する。その後小さな事故をきっかけに健康状態を損ない気候の温暖なアリゾナ州に転居し州立病院で勤務する。この病院を退職した後に開業医としてのキャリアがスタートすることとなる。以後エリクソンは1980年5月になくなるまで自宅兼診察室で臨床活動、ワークショップ、研究学会活動を精力的に行った。
エリクソンは催眠のほかにも学習理論をはじめ当時の臨床心理学の各学派の理論を学び
これまで催眠は催眠者が催眠を与えて被催眠者を催眠に導くものであったが、エリクソンは催眠もコミュニケーションの一つととらえ、両者の関係に焦点をあてた催眠誘導を開発した。
往々にしてエリック・エリクソンと間違えられやすいが別人であり、英文スペルは綴りも異なっている。
催眠療法応用
催眠は心理相談以外の分野でも広く用途を考えることがありえるし、実際に行われても来たが 実際の適用を受ける機会は多くはない。以下にどのような分野での適応がありえるか例を挙げてみる。
歯科
歯科領域での催眠の応用例は古くからあり、疼痛の管理に用いられてきたが、問題ないにもかかわらず噛み合わせの異常を訴える、などの様々な口腔医学的な問題に幅広く応用されている。都内などでは実際に催眠を学んだ歯科医が開業している。
スポーツ
能力開発などのためにコーチングなどが用いられることがあるが同様の目的で催眠を用いることも可能である。その際メンタルリハーサルなど スポーツに関わる意識的な在り方へ働きかける場合とより効率的に技術を向上させる工夫をするために働きかける場合などが考えられる。
学習・試験
催眠を用いて記憶を促進する、動機づけを高める、試験の際に学んだことを効果的に発揮する、リラックスして課題に臨めるようになる、などの用い方をすることがある。
催眠療法と催眠術・ショー催眠
催眠は現在ではその目的は大きく二つに分かれており、一つはここでも解説している心理療法として活用されるものであるが、もう一つは娯楽として用いられる催眠があり、主に催眠術という呼び方をされる時には この領域の催眠を表すことが多いと考えてよいだろう。ショー催眠、ステージ催眠、舞台催眠、などと呼ばれることがある。
これらは娯楽で用いられるため催眠術師はより効果的にショーを演出しようとするため、いかにも催眠術師が特別な力を持っているかのように振る舞い、催眠現象が特別なあるいは神秘的な現象であるかのような印象を観客に抱かせる。しかしそれは世間に催眠現象についての誤った知識を流布する元凶ともなり、 その結果催眠療法への 不正確な認識を植え付けるに至っている。そのため催眠療法家はショー催眠に対して一般的に否定的な立場を取るものが多い。
催眠にまつわる誤解や迷信・前世療法含む
催眠療法の長い歴史の中では科学的な立場から臨床心理学的な目的を追求した催眠療法が研究されてきた一方、 催眠現象を見世物として 利用してきた人たちが存在していたのも事実です。 催眠現象を見せ物としてきた催眠術師はショーを盛り上げたり興行を成功させるためにいかに自分がカリスマ的な存在であるか、催眠現象がいかに神秘的な出来事であるのか、というイメージ作りを意図的に行ってきましたまるその影響は現在においても脱ぐことができていませんまる例えばスクールカウンセリングの場などでは催眠療法を行うのは禁忌です。たとえカウンセラーや専門家が催眠現象に相手の意思とは関係なくカウンセラーの好きなことをさせることはできないということをよくわかっていても、周囲にいる専門家以外の人々のイメージに配慮せざるを得ないからです。つまり催眠現象にまつわるイメージは一般的にはそれほど偏ったものであるということが定着した見解として流布しているのです。
催眠にかかっていると自分の意思とは無関係にコントロールされてしまう
催眠にかかっている人が主体性をなくしてしまうことはありません。過去に女性に催眠をかけてわいせつなことを行おうとした事件が実際に発生していますが失敗に終わっています。催眠現象について良く知る者であればこのようなことが不可能であることはよくわかっているはずです。催眠初めてにかかっている人が催眠療法家の指示に従っているのはその方が自分にとっての利益になることが分かっているからです。テレビなどで芸能人が催眠状態において非常に変わったパフォーマンスを示すことがありますが、あれも芸能人としてそのように振る舞う利益があるからであり、もし一般の人に同じようなことを要求した場合果たして同じことが可能かどうか。そして催眠をかける人間もこのような状況も織り込んで催眠現象を活用するのに利用しているのです。
ですから自分が思い通りにされてしまうのではないかと言う恐怖心から催眠療法を選択肢から外してしまうのは誤解に基づいた機会の喪失となってしまうかもしれません。
秘密が暴かれてしまうのではないか
上の段落でも触れているように例え催眠療法家であってもクライアントの意思と無関係に コントロールを及ぼすことはできません。したがってクライアントが離したくないと願っているようなことを暴くような能力は催眠療法家にはないのです。
眠っている間に問題が解決する
催眠にかかると自分の意思とは関係なくコントロールされてしまうということの反面、自分が苦労して問題に向き合わなくても催眠療法によって眠っている間に問題が解決され、目が覚めたら 別人のように晴れ晴れとした生活が送れるのではないか、と考える人達もいます。残念ながらこれも誤解です。催眠療法の世界では催眠でできることは催眠以外の心理療法でもできる、催眠以外の心理療法でできないことは催眠療法でもできない、と言い慣わされています。では催眠療法を行うことのメリットはどこにあるのでしょうか。それは催眠療法は効果的に用いることで通常の心理療法の過程を効果的能率的に進めることができるという点です。
したがってたとえ催眠療法であっても自分の問題と向き合う決心のないクライアントに対しては非常に限定的な効果しかもたらさことができないでしょう。
催眠にかかる人は 知性が足りない
催眠にかかりやすい人は知能が低いのではないか、意志の弱い人ではないか、などと思う人がいるかもしれません。もしくはそう思われることを避けたくて催眠療法という選択肢を避ける人もいるかもしれません。しかし事実は異なります。 催眠療法は専門家による誘導によって催眠状態に誘われますが、催眠状態を迎える能力自体はクライアントのものです。そういう意味では全ての催眠が自己催眠であるという言い方もできるかもしれません。効果的に催眠状態になるには精神状態を催眠状態に導くための想像力や集中力が求められます。また実験でも平均以上の知能のある人の方がより催眠状態に誘導されやすいということが分かっています。
催眠とは誘導された睡眠なのではないか
催眠状態を睡眠と誤解するのは珍しいことではないかもしれません。しかし催眠状態では一般的にその間に起こった出来事、話された内容について記憶があることの方が普通です。これをもってしても睡眠とは異なるということが分かっていただけるのではないでしょうか。
万が一目が覚めないこともあるのではないだろうか
催眠から目が覚めなかった人の報告例はおそらくただの一例も無いものと思われます。クライアントが催眠状態の心地よさに目覚めたくないと思う例の方が多いかもしれません。しかしそれもクライアントが自分の都合によってしていることであり、何かの事故で催眠状態から目が覚めないなどということは常識的に考えられない。
前世療法
自分の生まれる前の自分、つまり前世の体験が現在の人生に影響を及ぼしている、という仮説に立ち、前世の記憶に遡って葛藤を解決することができれば現在の問題が解消する、という仮説にたち、前世の記憶を催眠状態で思い出す、という手法をとる催眠療法を前世療法といいます。
催眠療法は万能感を容易に感じさせ易いものでありますし、神秘主義的な装いを纏い易い手法でもあるため、科学的な相談の範囲をはみ出したところでの相談活動と結びつけて用いるものがいつの時代も一定数いるようです。前世療法もそのうちの一つといってよいでしょう。ブライアン・ワイスという人が始めたものです。国内でも書籍が販売されていますし、テレビのバラエティー番組で取り上げられたこともあります。
これについて科学の立場で相談活動を行おうとするものがどのように考えるかを知っておくのは催眠療法を検討する方にとっては意味のある事だと思います。
偽りの記憶症候群
精神分析の自由連想中に過去に父親か性的虐待を受けた記憶を思い出した女性が父親を裁判で訴える、という事例が実際にアメリカでおきました。しかし公判中に明らかになったことは父親は実際にはそのようなことはしていなかったこと、自由連想中に思い出したとされる記憶は誤りであったこと、です。
これにより今度は精神分析家が訴えられることとなったという有名な事件です。
このように人が思い出す過去は歪曲されていたり、極端な場合は全く経験したことがないものであることでさえあるのです。まして催眠で思い出される記憶自由連想で起きるよりも偽りの記憶が発生しやすいと言えるでしょう。このため催眠で思い出された記憶には裁判での証拠能力などが認められていない状況です。
では催眠で思い出された記憶が意味がないのかといえば、それはセラピーの中での活用次第であると言えます。科学の範囲で行われている相談の中で扱われる記憶ですら客観的なものだとは普通考えていません。ですがセラピーは成立するのです。それはクライアントが物語の中に自分をどのように納得して位置付けるか、ということが重要なのであり、意味を持つからです。臨床の中で語られる記憶は面接室の中での物語として取り扱われるのが最も安全であり、それを客観的なものとして面接室内に持ち出す際には慎重に扱われなくてはなりません。
つまり前世療法で思い出されている前世の記憶は全くの創作である可能性が高いと思われます。ですから前世だと思っている記憶を思い出すことに意味があるが、それが本当に前世の記憶である、とか前世は存在する、と行ってしまうとカルトになってしまうでしょう。逆に言えば前世療法を前世と称するものを扱うが、それはあたかも前世があるように感じる人間の認知の働きを利用しているだけである、というなら科学の範囲にぎりぎり収まるかもしれません。もっともこれは定義上の話であって通常前世療法という場合、これは疑似科学の範囲だと思います。ですがこれを本当に信じて行う人同士の間では一定の治療効果はあってもおかしくはないだろうと思います。ただそれが他の催眠療法や心理療法よりも優れているかといえばおそらくそんなことはないでしょう。また、前世療法が上手くいかなかったときに代替手段への振替がスムーズではないなどの問題が存在することはあると思います。
マスメディアの信頼性の程度
前世療法の記憶が作られたものである、という主張は納得が言っても、二人の人間が共通の前世について語っており、当時も知り合いであった、という記憶がありこの場合は本当に前世があったとする場合の方が説明として納得手出来る、という場合もあるでしょう。事実そういうケースの報告があります。
しかしこの場合、報告者の言っていることをうのみにするのは科学的態度ではありません。第三者が当事者のことを検証しなくてはならないのです。マスメディアでは良くこのようなことを興味本位で取り上げますが、マスメディアは視聴率のために容易にデマを発信します。先進国でのマスメディアの信頼度は2,30%程度であるのに対し、我が国では70%ほどがマスメディアのいうことを無条件に信用する傾向があり是非とも注意しなくてはいけない点です。おそらく前があると仮定した方が説明が容易な事例であっても詳しく検証した場合、様々なトリックが見つかったり検証の不備が発見されたりといったことが考えられるのです。 おそらくマスメディアは意図的にこの辺りの事情を伏せています。
私の経験で恐縮ですがある眼科医がマスメディアから受けたインタビューである食品が目に良いというコメントをしてくれというふうに依頼されたことがあると言っていました。そのような事実はないので彼は断ったそうですが、おそらくインタビューした人物は都合のいい返事をしてくれる医者の間をしばらく探していただろうと考えられます。このようにマスメディアで提供されている情報はもちろんすべてが嘘ではないでしょうが、視聴するうえで批判的に検証する能力が求められるのは言うまでもありません。
また紹介されているケースは前世を思い出すことによって非常に劇的な転換点を迎え症状が軽くなると言ったドラマティックな展開を迎えるものですが、これらのケースのほとんどはセラピーの中で特に宣伝効果が高いものを選んで紹介されているものである可能性が高く実際にすべてのケースがあのように短期間で強い印象を残す展開を迎えるものばかりとは考え難いものです。国内で前世療法を行っている人達も一部いますが、 私の知る実践者も同様のことを言っていました。
催眠の科学性
否定的研究と反論
イギリスの心理学者グラハムは催眠にかかった人間の意識は決して朦朧としているわけではないということを根拠に被催眠者は覚醒していて予想されるシナリオに従って役割を演じているに過ぎない、と言っている。このように心理学者でありながら催眠療法を否定する立場を持っているものもたくさんいるのである。その他にどんな主張があるのかをここでは紹介してみたいと思う。
バーバーいわく、催眠状態の人間がすることはすべて動機づけが適切に行われその行動にふさわしい状況が与えられれば覚醒時の人間にも可能なことばかりである。
ニコラスの実験では心理学という単語を聞いたらそのたびに咳をするという後催眠暗示を与えた被験者に 実験終了後、実験に立ち会った観察者及び実験とは無関係(と被験者が信じる)人物によって この現象をテストしたところ、被験者が実験に立ち会ったと知っている人物と接触した場合だけ咳をしたという現象を報告している。
クロンバグは被験者に催眠状態で小学校のクラスメートの名前をリストアップさせそれを学校の記録と照合するという実験を行いほとんど一致していないということを報告している。
これらの研究を報告している心理学者の基本的な背景までは知る由がない。しかし否定的研究の内容は実験のデザイン、結果の解釈において催眠の素人の発想であるように思われる。
催眠が本人の主体性を無視してなにがしかの結果を導けない、文脈への依存性が高い、催眠療法家でも偽りの記憶症候群を認めている、などの催眠を専門にしている人間ならば当然弁えているようなことであるのに、実験などでそれを証明して催眠が存在しないことの根拠を得たと報告しているものが多いように思われるが、彼らの理解する催眠現象のイメージはずいぶんと硬直したものであるのだろうか。
状態派と非状態派について解説した部分でも述べたように脳機能の画像診断でもエビデンスが得られているものやそれ以外の研究についてはどのように反論しているのだろうか。残念なことながらそこまでの資料は得られなかったが、このような主張をしている人々がいることもここで紹介しておく。
催眠療法のエビデンス
エビデンスベースドメディスンと言われるようになり統計的な効果の証明された方法による治療に基づいた医療を提供することが当たり前になっているが、心理療法の世界も現在その方向に進んでいる。 催眠療法については現在その具体的な効果が十分に実証されているとは言えない状況である。催眠はクライアントの催眠感受性や催眠状態にあるクライアントに対してどのような暗示を与えるのか、または催眠誘導をこの状態でさらに他のセラピーの要素を付け加えるのか、など 様々な要因が重なり合い 実証的な研究を行うのは非常に困難であるという実情がある。そのため古くから知られている催眠現象ではあるが エビデンスの研究に関しては近年端緒についたばかりなのである。
催眠療法を受けるうえで注意すべきこと
催眠療法を考える相談者は以下の点について良く検討すべきである。
催眠や無意識に非現実的な期待をしない
無意識にリソース(資源)のない場合、催眠によって活用できる材料そのものが足りていない。催眠は相談活動の効率化を図るうえで非常に便利なツールであるが万能な方法ではない。人間の無意識はこれまでの人生で蓄積されたリソースを豊富に含んでいるものであるが決して神秘的な力を持っているものではない。無意識の可能性に神秘的な効果などの非現実的な期待を抱いて催眠療法を希望するのは現実的な態度とは言えないだろう。
催眠療法家に依存しない
催眠療法を期待する場合、それなりに自分の課題と正面から取り組む努力をするつもりが無ければ効果は限定的なものにならざるを得ないだろう。意識的に困難な課題に取り組む自信がなくて眠っているうちに解決してもらえるのではないか、などの誤解に基づいた期待を抱くものも存在する。しかし残念ながら催眠療法はそのようなものではない。
ミルトン・エリクソンは「仕事をするのは患者です。セラピストは単に仕事場を提供するだけです」と言っている。
催眠商材の有効性について
自己催眠を応用した商品としてダイエットや禁煙などを目的にした CD などの販売が確認されている。 アメリカやヨーロッパでの研究を基に考えるならば販売されている自己催眠の教材には効果がないということが判明しているとのことである。
催眠療法の一環として催眠療法家による特定のクライアントを対象にしたオーダーメイドの 活用することがあり得るのだが、 それとは本質的に異なるようである。
催眠療法家の選び方
催眠療法による相談を希望される方はカウンセラーが正規の催眠の資格を持つもの、または公認心理士、臨床心理士などの信頼のおけるカウンセラーの資格を持つものであるかを確認して問い合わせることを強く勧めたい。
催眠団体、資格
学会を名乗る基準は存在しないため同好会が学会と名乗ることも可能である。日本でも複数の催眠を研究する学会が存在するが、以下には日本学術団体に登録している専門性が高いと判断される学会について紹介する。催眠を学ぶ意思のある専門家は以下を参考にするとよい。
日本催眠医学心理学会 大分県大分市 認定催眠士 指導催眠士 臨床心理士ポイント
故成瀬吾策先生
日本臨床催眠学会 東京都新宿区 臨床催眠資格 臨床催眠指導者資格
故高石昇先生
日本催眠学会 千葉県印西市
その他の催眠を標榜し学会を名乗る団体
日本医療催眠学会
日本催眠心理学会
その他催眠の学習には特別の規制が存在しないため、短期間の研修を経て資格授与を行う民間団体は複数存在している。