WAIS/WISC検査の概要

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 このページでは最も一般的な知能検査として知られるWAIS/WISCについてご紹介いたします。柏市内にもこの検査を受けられる機関が複数存在します。無料の所から有料のところまで様々ですが、分析結果の専門性、結果の活用などについてどこまでの品質が保たれているかは検査者の技量次第でかなりの高低差があるようです。

ウェクスラー系知能検査

 現在知能の測定が必要な場面で最も活用されていると思われるのがこの知能検査です。対象者の年齢により同系統の3種類の検査が用意されており

 WIPPSY‐Ⅲ(ウィプシー・スリー) 3歳10か月~7歳1か月
 WISC‐Ⅳ(ウィスク・フォー)   5歳0か月~15歳11か月
 WAIS‐Ⅴ(ウェイス・ファイブ)  16歳0か月~73歳11か月

の3種類が存在し、それぞれが何度かバージョンアップされて現在に至っています。上記のものが最新版になります。

ウェクスラー系検査の特徴

 知能検査の種類はウェクスラー系の他にビネー系の検査が存在します。またこれらの系統に属さない知能検査もあります。そのような中でウェクスラー系の知能検査にはどのような長所があるのかを解説いたします。

  • 認知機能、高次神経機能などを精査する際に一般的知能の低下、知能の内容にどのような特徴があるかなどを調べるために用いられることが多い。
  • エビデンスが比較的しっかりしていることが挙げられます。他の知能検査には統計的な裏付けが不十分なものもありますが、ウェクスラー系は比較的エビデンスが整っていると言われます。ただし歴代検査の中ではエビデンスの怪しいものもありWISC-R日本版の標準化データはその手続きに不透明な部分が多いようで、WISCに比べて20点ほどもIQが低く算定されてしまう内容に疑問の多いものであったとのことです。現在はWISC-ⅣかⅤが用いられているためその心配はありません。
  • まず知能を分析的にとらえることができることです。知能指数、IQと呼ばれる数字だけではなく、知的な能力をいくつかに細分化し、さらに詳しく質的な側面を明らかにすることができます。
  • 上記のような特徴があることからか、最も広く普及していると言って過言ではない検査です。実施できる機関や検査者、資料や研究の多さも一番多いのではないかと考えます。
  • したがって検査報告書を他の機関の専門家の所に持ち込んだ時に「この検査はやったことが無いので詳しい読み方がわからない」などのことがありません。もしわからない専門家がいたらあまりにも勉強不足であるため相談相手を変える検討をしても良いくらいだと個人的には思います。

 

WAIS/WISCに弱点はないのか?

 細やかな資料が得られる反面、いくつかの短所を挙げるとすれば、思いつくのは以下のようなことです。

  • 実施に時間がかかる。相談者にもよるので一概には言えませんがWISCで90分程度、WAISで150分以上。追加の下位検査を行うならば180分以上を要することも。
  • そのため精神的身体的な体力を消耗します。とはいっても元気な人には十分耐えらえる程度です。
  • 再度の検査の必要が生じた場合、最低でも2年程度の時間を空けなくてはなりません。検査問題の学習効果があると正確な結果が得られないからです。どのくらい期間を開けなくてはならないか諸説あるのですが、さる論文に従って私は2年と考えています。
  • 検査内容の指示自体がやや難しめなため、問題を理解するのにもある程度の知能を必要とします。そのため特に知的低さの見込まれる子供の場合など、問題そのものが理解できなさそう、と判断されると田中ビネーなど他の検査に差し替えられることが多々あります。
  • 開発当時の経緯からウェクスラー系検査の知能観はCHC理論とは接点を持たず、知能を独自解釈に従って定義し整理してきました。しかし時代がくだりCHC理論が統計的に妥当性の高い知能理論であるとの評価が定まるとウェクスラー系検査の知能観は再編を求められるようになりました。そのため最近ではCHC理論に対応すべく指標の整理が進んでいます。最新のWISC-ⅤからCHC理論の知能観に基づいて指標が利用できるようになりました。もっとも名称はいまだに過去のものを引きずっているのですが。それ以前の検査ではCHC理論と関連させて結果を理解しようとするとひと手間かけなくてはなりませんでした。最もこれは専門家でなければ気にしなくて良い点ではあります。
  • もう一つ専門的な観点から述べるなら信頼区間は通常90%で解釈することが一般的とされていますが、統計的には検定の多重性の問題から90%では本来有意ではないものを有意であると判定してしまう確率が高くなるため、正確を期すためには95%を採用するべきであるとのことです。
  • 個人的な疑問としては下位検査の中には測定しようとしている能力以外の要因から影響を受けてしまうため知りたいことだけを確実に知ることができるようにはデザインされているとは言えないと思われる検査が含まれていたり、問題の意図した能力を正確に測れているのか疑問に思われる課題があったり、回答の性誤判定の基準に疑問を感じるものがあったり、などいくつか気になる点も存在しています。
  • 前述した通りWISC-Rにいたってはその妥当性は眉唾もの。

 このように敢えて難を挙げてみれば様々な課題はあるものの、それにも関わらず重要な情報を提供してくれる有益な検査であることに間違いはありません。発展の余地を多分に残しながら貴重な情報を与えてくれる重要なツールなのです。

 

知能検査結果の利用について

 検査は受検者に負担の掛かるものですし、一度検査を受けると再受検まで一定の時間を空ける必要のあることから、知りたい、という理由だけから実施するものではないと考えています。実施するうえで結果の利用目的を明確に意識しておくのがお勧めです。知的な特徴を知ることにより、得意な能力不得意な能力を知り、進路選択の参考にする、学習の仕方を工夫にする、療育手帳を申請する、診断の補助資料として知的な特徴を把握する必要がある、などの時に利用することができます。

注)この記事を執筆するにあたり村上宣寛先生の著書を参考にさせて頂いた部分があります。表現は私の解釈にしたがっているため、文責は私に帰すものとします。

注)文中の見解には執筆者個人の意見を多分に含んでおります。

 

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