注意障害・記憶障害・実行(遂行)機能障害

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 神経発達障害は脳の神経機能の一部発達に障害が仮定される、情報処理、コントロールに著しい偏りがあることによって生活に著しい困難が生じている状態です。しかし神経発達障害には含まれはしないけれど、やはり脳神経の発達に障害があると考えられ、それにより発生するその他の認知機能に関わる障害が存在します。

 それは高次脳機能障害と呼ばれるのと似た症状を呈することがあります。ただし高次脳機能障害の場合は脳に外傷などの要因が加わって後天的に発生した際にそう呼ばれるのですが、実際には外傷も内にも関わらず先天的に同様の特徴をもっている人たちも存在するのです。
 一般的に脳に外傷を受けると機能が正常であるかどうかに真っ先に関心が集まります。そのため高次脳機能障害は医療機関の注意をひきやすく発見されやすいと言えます。
 しかし先天的に同様の症状を持っていたとしても、学校生活では多少の能力の偏り、判断の奇矯さが変わった印象を与えるのがせいぜいで、周りの大人が何らかの対処をしなくてはならない事態であると認識されないことが多くあります。

 このような障害があっても多くの場合トラブルを起こしたり、あからさまに指導に従わないなど、大人の指導に明白な抵抗を示さないため管理上の問題に登らないため個人の変わった傾向として矮小化されてしまいやすいことや保護者が自分の子が認知機能、いわ問題があると思いたくなかったり、担任が保護者に向かって何らかの偏りのあることを伝えることが意外と難しかったりすることがあげられるかもしれません。

 学校などの保護された環境の中ではあまり目立たないことも多いのですが、一旦社会に出たとたんにこれらの症状は職場環境への適応上の問題に直結することが多く発生します。そして著しい職業的達成水準の低さは対人関係をも損ねたり、それにより自己評価が下がったりなどして適応障害やうつ状態の誘因になるなど二次障害を誘発することもあります。

 高次脳機能障害では「注意障害」「記憶障害」「実行(遂行)機能障害」に加えて「社会適応の障害」が顕著といわれます。ここでは「注意障害」「記憶障害」「実行(遂行)機能障害」の三つを取り上げて解説してみたいと思います。

 

注意障害

 一つ、または複数のことに集中したり、いくつかのことに同意に注意を払ったり、多くの情報から必要な情報を取捨選択して処理する能力が何らかの形で障害されていることを注意障害といい、高次脳機能障害では最も起こりやすいものと考えられています。

 一口に注意の障害といっても注意機能もさらに細かく分けて考えることができ、それぞれの障害によっていくつかに分けて考えることができます。

 持続的注意・集中して1つのことを続ける力
 選択的注意・多くのものから必要な刺激や情報を選ぶ力
 配分的注意・複数のものに同時に注意を向ける力
 注意の転換・一つのことに注意を向けながらも必要に応じて他のことに対象を切り替える力

 また用いる感覚器官により視覚的な注意、聴覚的な注意を想定することも可能です。

 この機能に問題が生じるとWAIS/WISCの検査項目の1つである作動記憶(ワーキングメモリ)の得点が低下することがありますが、内容によっては低下していてもウェクスラー系の知能検査では検出できない種類の問題も起こりえます。WAIS/WISCで問題のあることが確認できたとしてもその内訳までを知ることはできません。そのためさらに詳細な評価が必要になります。

記憶障害

 「記憶」とは個人の経験が保存され、それが後から必要に応じて意識や動作の中に読み込まれる神経の働きと言えます。記銘、保持、再生の過程を経て利用されるのですが、言葉で語ることのできる記憶、体で覚えている記憶、など記憶内容に従っていくつかの種類に分けることもできますし、記憶を保持する時間によって分けて考えることもでき、いろいろな分類の仕方が可能となっています。

 やはり用いる感覚器官、視覚的記憶、聴覚的記憶などで同じ個人でも記憶の効率が異なる場合があり得ます。

 

記憶内容により
  エピソード記憶、意味記憶、プライミング、手続き記憶

 保持時間により
  即時記憶、近似記憶、遠隔記憶

実行(遂行)機能障害

 実行機能という名称がこの3つの中では一番想像しにくい馴染みのない名称であるかもしれません。因みに心理学の分野では実行機能という言い方が一般的ですが神経心理学の分野では遂行機能という言い方をすることが多いようです。どちらも同じものを指しています。

 目標を立て、順序立てて計画をたて、実行に移す。そして必要であれば修正を加えて当初の目標へと接近する能力のことを言います。

 そのため複数の高次機能によって構成されている機能でもあります。

 例えば夕食を作る際には、何を作るかを決め、足りない食材を調べ、どこに買い物に行くかどんな順でまわるかを考え、値段を比較し、手に入らないものをあきらめたり代替したり判断をし、必要な調理器具をならべ、使う材料を切り出し、レシピの手順に従った調理や調節を行い、盛り付ける食器を選ぶ、これらの作業を完了するのに必要な時間の見積もりはあらかじめ立てられていなくてはならない、など普段何気なくこなしていることですが膨大な情報処理を行っています。

 実行機能に障害があるとこの能率が大きく損なわれ、著しい場合は完成にたどり着かなかったり、完成しても能率の悪い手順をたどったりミスが多かったりなどの減少が現れることになります。これが職場などで起こると職業生活上かなりの不利益を被ることが想像されると思います。

 実行機能障害は検出するための検査は用意されていますが、検査結果に表れにくい障害であるため同居されている方の観察や本人の不適応を訴える陳述により多くの情報を求める姿勢が重要となるため医師やカウンセラーがこのことの知識がないままに話を聴いているとただの適応障害などの判断を下してしまうことがあるため注意が必要です。