知能検査についての簡単な解説

知能研究のパイオニアたち

 柏市内にも知能検査を受けられる機関はたくさんあります。例えば精神科の病院、児童相談所、カウンセリングルーム、こども発達センターなどなど。しかしあまり知能検査そのものについて十分な説明を受ける機会はないかもしれません。こちらのページでは知能検査についていくばくかのイメージを持っていただけることを願って執筆いたしました。参考にしていただければ嬉しく思います。

 

そもそも知能とは何か

 知能が高い、知能指数が低い、IQとは、精神年齢とは・・・日常的にも使われることのある単語ですが、その正確な意味を知っている方は殆どいないだろうと思われます。ここでは知能が現在どのように定義されているか、という事について簡単にお話したいと思います。

 知能とはもともとIntelligenceであり日常の言葉ですが、これを実験心理学の分野で測れるのではないか、という興味を持ったのが心理学で知能を対象に研究をする先駆けとなりました。種の起原で有名なダーウィンの従兄弟にして優生学の先駆けとして悪名も併せ持つゴールトンが知能を科学的に測定するため精神テストを作成しました。この研究がキャテルに引き継がれますが、ここで研究された内容は知能を測定するにはあまりにも関連性に乏しく、実効性のある測定方法はビネーとシモンを待たねばなりませんでした。

 この時点での問題は日常語であった知能を測定の対象とするならば明確な定義がなされなくてはなりませんが、それが行われていません。従って測定すべき対象も不明瞭では測定するための手段も適切なものが用意できないことになります。

 知能の定義がその後いろいろと考えられました。有名な所では

  •  ソーンダイク曰く
     真実、もしくは事実の観点から見て正しい反応をする能力
  • ターマン曰く
    抽象的志向を遂行する能力

 しかしこれらを具体的に測るとはどのような事なのか、目に見えない知能は人間の能力のどこからどこまでが該当し、どこからがそうではなくなるのか、そんなことを明確に線引きなどできるはずはありません。しかし検査という具体的な測定の道具と手順がある以上どこかで線を引かなくてはならないのも事実です。そして以下のような定義も提唱されました。

  • ボーリング
    知能とは知能テストが図ったものである

 初めて聞けば、なんだそれは?と思うかもしれませんが、ある意味最も正確な定義です。

 そして知能検査で測った知能の結果を表示するためにターマンが提唱したのが知能指数(Intelligence Quotient=IQ)です。当初知能指数は精神年齢を生活年齢(暦年齢)で割った物に100を掛けて求めていました。

 精神年齢とは世の中では誤って使われていますが、行動や考え方、趣味などが幼いことをいうのではありません。ある人の知的能力の発達の程度がどの年齢段階にあるかを示すのが精神年齢の考え方です。しかしこの考え方を用いた知能指数の求め方には問題がありました。

 現在では精神年齢を用いず知能偏差値を用いた偏差値脳指数を用いる知能検査が一般的となっています。偏差値脳指数は同年齢集団の平均からどの程度ずれているか、を示す統計的な考え方に基づいて考案されています。

 したがって知能指数とは知能を推定するために工夫された検査を用いて不完全ながらも知能のある側面を評価し、数値化して表したものである、といえるでしょう。

 

知能検査開発の過程

 知能検査はフランスで学校教育が義務付けられた結果、勉強したがらない子供の中から、怠けたい者と知能の低い者を区別し、必要なものに特殊教育を提供する必要が生じました。その必要に答えて1905年、ビネとシモンにより知能検査が初めて開発されました。これが今に続くビネー系検査の出発点となります。

 ビネー・シモン検査はアメリカで渡りスタンフォード大学で整理され直し、アメリカ国内で普及していくことになります。そのような中でまだまだ改良の余地のあったスタンフォード・ビネー検査に不満を抱いたベルビュー病院のウェクスラーがそれまでのビネー系検査とは異なる発想に基づいた独自の知能検査を開発します。ビネー検査は知能の発達程度を測るのみであるのに対して知能を構造的、因子的にとらえ、その特徴を明らかにする新しい検査の開発に取り組みました。これが今に至るウェクスラー系検査の始まりとなります。

 ウェクスラー検査はビネー検査には少なかった言語に頼らない問題が多く含まれたり、知能の内容を分析的に把握できるため情報量が豊で、現在でも知能検査の主流となっています。

 代表的な2つの知能検査をあげましたが、これらは検査者が各被験者に個別に実施せねばならず、時間も長くかかる検査となっています。しかし知能検査の有用性が社会に理解されるにつれ、時間をかけず集団で知能を測るニーズも生じてきました。例えばアメリカでは陸軍が募兵の際に適切な人材を選抜するために読み書きができる者、できない者向けに2種類の検査を開発しています。

 他にも多くの研究者がそれぞれの知能観に基づき様々な検査を開発しはじめ、日本でも多くの検査が輸入され日本人向けに標準化を経て医療施設、福祉施設、教育施設などを中心に利用されています。

 

各知能検査のコンセプトの違い

 知能検査に分類される検査が等しく人間の同じ能力を測定し、同じ観点から分析しているわけではありません。知能という形のないものを捉えるために様々な理論が様々な知能の構造を提唱しています。また知能のごく一部だけを測っている検査もあります。

 そのため利用目的を考えて必要な検査を選ばなくてはなりません。

課題の内容から

 種類の違う検査を組み合わせて構造的に知能を理解しようとするもの ウェクスラー系検査、K-ABCなど
 単一の課題が難易度別に設定されているもの  コース立方体など

理論的背景から

 ルリア理論、PASS理論など特定の知能理論に基づいているもの K‐ABC,DN-CAS
 特定の知能理論に基づかないもの ビネー系検査

 

IQという言葉に惑わされない 

 例えばコース立方体はブロックを使って模様を使う検査のみで構成されていますが、これはウェクスラーの積み木模様と課題の趣旨はほぼ同じです。コース立方体では言語的問題は扱いません。つまり言語の能力についてコース立方体では測定不能な部分です。そして数値もIQで表されますが、これはウェクスラーやビネー検査のIQと同じものなのかといえば全く意味合いが異なるわけです。

 そのためIQがいくつであるのか、という事についてどの検査の結果であるのかを明記せずに数字だけ比較しても意味を成しません。受けた検査の名前をちゃんと覚えておくべきです。

 このように知能検査、といっても人間の特定の能力について図ろうとしているのか、できるだけ総合的な能力を測ろうとしているのか、検査によってその目的が異なっています。そのため現在では一般的な知能が知りたいのか、特に何らかの能力に絞って短時間で知りたいのか、など被験者のどのような特徴を明らかにしたいのか、との目的に合わせてより相応しい特徴を持つ検査を選んで実施していることと思います。

 もう一つ気を付けなくてはならない点について

 例えば学校の試験で80 75 70 83 77 という点数をでの合計385点と 98 89 29 83 86という点数の385点では、どちらも単純な順位は同列ですが、その能力の内訳はおのずと異なることがお分かりいただけると思います。

 これは知能検査でも同じことが言えるのでただ単に数字を比べるような利用の仕方には意味がありません。数字が表している内容こそが重要な情報なのだとご理解いただけたらと思います。

 

知能検査が必要と考えられる状況 ‐受けるきっかけ‐

 知能検査が必要と考えられる場合の多くは何らかの知的な能力の未発達、機能低下が考えられる場合に学校の担任、保護者が相談につなげたり、職場でなぜか期待されるよりも仕事のパフォーマンスが低いことに疑問を感じた本人による相談、神経発達障害の診断の補助資料として医師から検査の指示が出る、などの場合が多いです。

 このような方々に実施することにより、全般的な知能の低さが生じているのか、または平均的な能力と低い能力の差が激しいことによって生じている不適応状態であるのか、集団の中でのつまづきを能力的な面で評価を行うことができます。

 そのための現状の把握、診断補助資料、学習や就労上の工夫や注意点を明確にすること、などの目的で実施されます。この検査1つで何らかの診断を確定することはできません。あくまで重要な参考資料なのです。

 

合理的配慮について

 障害のあるものが生活するうえで、その障害のゆえに生じる困難な事象に対して、一人一人の状況に応じて必要と考えられる適正なサポートを行うために配慮することを合理的配慮といいます。

 その配慮があることで困難さを軽減し、本人の能力が発揮されやすい環境に近づけるのが目的です。そのため健常者、定型発達者には提供されない配慮であっても障害者に対して提供されるには相応の理由があるため、特別扱いでも何でもないわけです。ですから合理的な配慮ということになります。

 認知特性に合わせた機材の利用を認められることがあるかもしれませんし、担任以外に学習サポーターが付くこともあるかもしれません。しかし合理的配慮が必要であることを証明する必要が発生します。

 そのためにどのような障害があり、それを補う必要があるのかを客観的に証明するためにも検査は行われるのです。

 

知能検査の種類

 すべての検査を挙げることはできませんが、前述した知能検査の大まかな分類に従っていくつかの例を掲載しました。

ウェクスラー系検査
 一般的な知能検査。IQ以外にもIQを構成する下位の知的指標ごとに数値化することができます。それにより具体的な能力の偏り、得意さ不得意さを理解することが可能となります。その情報量の豊かさにより最も普及している。

ビネー系検査
 長い歴史を持つ検査だが、知能指数がわかるだけで分析的な情報を得られない検査であったが、田中ビネーⅤからは14歳からは偏差値脳指数を算出することとなった。知能のより細かい分析ができるように工夫されている。田中以外にも鈴木ビネー、武政ビネー、辰見ビネーなどが作成されている。

K-ABC‐Ⅱ心理・教育アセスメントバッテリー
 CHC理論に対応した知能検査で「同時処理」「継次処理」に加えて基礎学力を知ることができる。ルリア理論、CHC理論に基づいて結果を解釈することができる。

DN-CAS認知評価システム
 知能というよりは脳の認知機能という側面から「注意」「プランニング」「同時処理」と「継次処理」というウェクスラー系の検査では測ることのできない能力を測ることができる検査。

コース立方体組み合わせ検査
 立方体のブロックを用いて模様を作る作業法の検査。複数の検査から構成されるバッテリー検査と異なり、知能の一部を測定できる検査と位置付けられる。

大脇式盲人用知能検査
 触覚を利用して行う全盲の方にもできる検査。検査の構成はコース立方体に準じる。

 DAMグッドイナフ人物画知能検査
 人物画を描くことで知能を測定する検査。そのため聴覚に問題のある場合でも実施が可能である。

 

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